米国財務省外国資産管理局（OFAC）、ダークネット市場ネメシス運営者に制裁

米国財務省の外国資産管理局（OFAC）は2025年3月4日、2024年に閉鎖されたダークネット市場「ネメシス」の運営者とされるイラン国籍のベフルーズ・パルサラド氏に関連する49の暗号資産アドレスを制裁対象リストに追加しました。

ネメシスの概要と活動

ネメシスは、閉鎖前に約3万人のアクティブユーザーを抱え、3年間の運営期間中に3,000万ドル近くの違法薬物取引を促進したとされています。
このマーケットプレイスでは、麻薬、個人識別データ、偽造文書、ランサムウェア、フィッシングやDDoSツールなどのサイバー犯罪サービスが取引されていました。

パルサラド氏の役割と利益

パルサラド氏は、ネメシスのユーザーから取引ごとに手数料を徴収し、マーケットプレイスの運営期間中に数百万ドルを稼いだと推定されています。
さらに、同氏はネメシスで活動する麻薬密売人やサイバー犯罪者のために資金洗浄も行っていたとされています。

制裁の影響と今後の展望

今回の制裁により、これらのビットコインおよびモネロのアドレスとの取引は米国市民および企業に禁止され、違反した場合、法的措置の対象となります。
この措置は、ダークネット市場や関連する違法活動への関与を抑制し、暗号資産を利用したマネーロンダリングや犯罪行為の防止を目指しています。
暗号資産は、その匿名性と取引の追跡困難性から、違法活動に利用されるリスクが指摘されています。
特に、モネロのようなプライバシー重視の暗号資産は、取引の秘匿性が高く、追跡が困難とされています。
しかし、今回のような政府の積極的な介入と制裁措置は、暗号資産の健全な発展と信頼性向上に寄与するものと考えられます。
今後、暗号資産業界全体が規制当局と協力し、違法活動の抑制と合法的な利用促進のバランスを取ることが求められます。

米国財務省の外国資産管理局（OFAC）とは？

米国財務省の外国資産管理局（Office of Foreign Assets Control：OFAC）は、経済制裁の実施と管理を担当する政府機関です。
OFACは、国家安全保障や外交政策に基づき、テロリスト、麻薬密売組織、人権侵害者、大量破壊兵器の拡散者、ならず者国家などに対して制裁を課し、国際的な金融システムの安全性を維持する役割を果たしています。

OFACの主な役割

OFACの活動は、経済制裁の執行を通じて、米国の安全保障や国際秩序の維持を目的としています。主な役割は以下のとおりです。
① 経済制裁の実施
OFACは、大統領令や議会の法律に基づき、以下のような対象に制裁を課します。
特定の国（国家単位）
例：北朝鮮、イラン、キューバ、ロシアなど
テロ組織
例：アルカイダ、イスラム国（ISIS）、ハマス など
違法行為に関与する個人・団体
麻薬密売組織、サイバー犯罪グループ、人権侵害者、大量破壊兵器拡散者 など
② 制裁リスト（SDNリスト）の管理
OFACは、「特別指定国民（Specially Designated Nationals: SDN）リスト」 を管理しています。このリストに掲載された個人・団体との取引は、米国人および米国企業に対して禁止されます。
また、銀行や金融機関は、SDNリストに基づいて該当者の資産を凍結し、制裁に従わなければなりません。
③ 暗号資産を含む金融制裁の強化
近年、暗号資産（仮想通貨）を利用したマネーロンダリングや違法取引の監視を強化しています。
2023年
ロシア関連の暗号資産ウォレットを制裁対象に追加しました。
2024年
ダークネットマーケット運営者の暗号資産アドレスをブラックリスト化しました。
OFACは、ブロックチェーン分析企業と連携し、制裁対象のウォレットを追跡することで、暗号資産を利用した犯罪行為を抑制しています。

OFACの制裁手段

OFACは、主に以下の手段で制裁を実施します。
① 資産凍結
制裁対象の個人・団体の米国内の資産や金融口座を凍結し、資金移動を阻止します。
② 取引禁止
米国市民および米国企業は、OFACの制裁対象者との取引が一切禁止されます。
例えば、米国の銀行は、SDNリストに掲載された口座との取引を停止しなければなりません。
制裁対象の企業と取引を行った場合、取引企業も制裁を受ける可能性があります。
③ セカンダリー・サンクション（二次制裁）
米国以外の国の企業・銀行であっても、制裁対象者と取引した場合、米国市場から締め出されることがあります。
例：
イラン制裁では、イラン企業と取引したフランスの銀行が罰金を科されました。
ロシア制裁では、中国企業が制裁対象になったケースもあります。
このように、OFACの制裁はグローバルな影響を及ぼします。

違反した場合の罰則

OFACの制裁を違反した場合、個人や企業は厳しい罰則を受けます。
巨額の罰金
例：2019年、英国のスタンダードチャータード銀行がイラン関連の違法取引で11億ドルの罰金を支払いました。
刑事訴追
故意に制裁違反を行った場合、刑事責任が問われ、最高20年の懲役が科されることもあります。
事業の禁止
制裁違反を繰り返した企業は、米国市場から排除されるリスクがあります。
特に金融機関や暗号資産関連企業は、OFACのルールを厳格に守る必要があります。

OFACの最新の動向

最近のOFACの動きとして、以下の点が注目されています。
① 暗号資産規制の強化
2022年
「トルネードキャッシュ」（イーサリアムの匿名化サービス）を制裁対象に指定しました。
2023年
北朝鮮のハッカー集団「ラザルスグループ」の暗号資産アドレスを凍結しました。
2024年
ダークネットマーケット「ネメシス」運営者の暗号資産を制裁対象に追加しました。
OFACは、ブロックチェーン分析企業と連携し、制裁対象のウォレットを特定・凍結するなど、暗号資産に対する監視を強化しています。
② ロシア制裁の拡大
ウクライナ侵攻を受け、ロシア政府やオリガルヒ（新興財閥）に対する制裁を強化しました。
ロシアの大手銀行の資産凍結をしました。
重要産業（エネルギー・防衛）の取引制限をしました。
欧米企業によるロシア事業の撤退圧力をかけました。
ロシア関連の制裁は、世界経済にも大きな影響を与えています。

まとめ

OFACは、米国の経済制裁を実施する中枢機関として、国家安全保障や外交政策の実現に重要な役割を果たしています。
特に、暗号資産の監視強化や国際的な金融取引の規制を通じて、違法行為を抑止する動きを強めています。
暗号資産分野のさらなる規制強化が進めばブロックチェーン技術を活用した制裁逃れを防ぐ対策が進みます。
国際的な協力の強化が促進されると米国だけでなく、EUや日本などの同盟国と連携し、制裁の実効性が高まります。
AI・データ解析の活用が普及すれば高度な分析技術を導入し、金融取引の不正を迅速に検出する仕組みが強化されます。
企業や投資家にとって、OFACの動向はビジネスリスクに直結するため、最新の制裁情報を把握し、適切に対応することが重要です。